転職エージェントを使って入社前辞退をする場合の注意点
日本の労働市場の流動性が高まるに従って、転職してキャリアアップを目指そうとする人が増えています。
そのような人にとって力強い味方となるのが転職エージェントですが、複数の企業に応募してそのうちのいくつかから採用の連絡を受領した場合に、第一志望以外の企業に対してどのように断りの連絡を入れるかは悩ましい問題と言えるでしょう。
そこで、以下では転職エージェントを使って入社前辞退をする場合の注意点についてまとめてみました。
目次
どのような方法で内定辞退を伝えるのがよいのか
まず最初に、転職エージェントに対して入社前辞退をしたいという意向を伝える場合には、できる限り早く連絡を入れるということと、伝えたと思っていたがエージェントは認識していなかったというミスコミュニケーションを回避するための二つのポイントが重要となります。
近年ではインターネットが普及しているため、ついついメールを一本送って終わらせようと考える人が多いようですが、一日に数百件ものメールをやり取りしているようなエージェントであれば、送られてきたメールをすべて見るとは限らず、場合によってメールボックスに埋もれたまま放置されてしまうというおそれがあります。
そのような事態を回避するためには、メールを送るだけではなく、送信後にすみやかに電話で連絡して自らの意思を明確に伝えるということが必要となります。
電話で連絡することのメリットは、スピーディーかつ確実に自分の考えを伝えることができ、かつ自らの言葉で話すことによってエージェントに対して誠実さもアピールすることができるという点にあります。
一方で、声で伝えただけでは、後々言った言わないでトラブルになる可能性もあることから、電話とメールを組み合わせて連絡するということが有効となります。
内定辞退の連絡時に伝えるべきこと
次に、内定辞退の連絡をする場合に、どういったことを伝えればよいのかを見ていくことにしましょう。
辞退の意思に加えて理由も伝えること
ときどき単に辞退したいという意思だけを簡潔に連絡する方もいますが、それではせっかく転職を成功させるために労力を費やしてくれているエージェントに迷惑をかけることになりかねません。
すなわち、連絡を受けたエージェントは、企業に対して応募者が辞退している旨を知らせなければいけないわけですが、そのような場合になぜ辞退するのかを企業が理解できるように説明できなければ、エージェント自身も転職市場での信用を失いかねません。
そのため、辞退したい旨だけを伝えてくるような転職希望者はエージェントからの信頼を失う可能性があるため、そのような事態を避けるためにはなぜ辞退したいのかという理由まで含めてしっかりと説明することがポイントとなります。
伝える理由も考えること
また、エージェントに伝える理由は何でもよいという訳ではありません。
上述の通り、エージェントは企業が納得できるように辞退の理由を伝える必要があるため、例えば他に行きたい企業があるためといったネガティブな理由だけであればかえって自分の印象を悪化させることになりかねません。
そのため、入社自体の理由は、なるべく企業側が、「それであればやむを得ない」と考えるようなものにした方がよいでしょう。
一例としては、採用条件が希望している内容に達していないということや、自分が希望している職種とオファーされた職種が異なっているといったようなことであれば企業からしてもあきらめがつきやすいはずです。
入社前辞退にはリスクがあるのか
入社前辞退は簡単にできると考えていると、思わぬトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
損害賠償リスクの度合い
すでに述べたように、転職エージェントは転職希望者が希望する転職をできるように多大な時間とコストを費やしています。
そのような状況において、せっかく獲得したオファーを辞退した場合、エージェントが本来企業から受け取ることができるはずの成功報酬が減額されることが一般的です。
そのため、入社前辞退を行うことは、エージェントが支出したコストが無駄になるばかりか、本来受け取れるリターンも損なわれることになることから、エージェントの利益を大きく毀損する行為と言えるでしょう。
そうなると、エージェントによっては辞退者に対して損害賠償請求をしようと考えるところが出てきても不思議ではありません。
実際に、エージェントによっては、入社前辞退をするような転職希望者に対して損害賠償請求を行う可能性がある旨を契約などに明記しているところもあります。
しかしながら、仮にそのような条件が設けられていたとしても、転職エージェントが辞退者に対して賠償請求をして損害を回復することはそれほど容易ではありません。
法律的にもそのような賠償請求は認められないケースがほとんどですので、訴えられるリスクがあると思って、自分の意思に反して不本意なオファーを受け入れる必要性はないと考えておいてよいでしょう。
ただし、辞退する場合にリスクを考慮しなければならない例外的なケースについて認識しておく必要があります。
それは、すでにオファーを受諾する意思を示した後に入社を辞退しようとする場合です。
このような場合には、すでに雇用契約が成立しているとみなされて、違反を問われ賠償請求が認められる可能性があるため、なるべくトラブルにならないように注意しながら進めることが必要となります。
リスクを避けるためにすべきこと
万が一、入社の意思を伝えた後にやはり辞退したいと思うようになった場合には、賠償リスクを避けるために早目に連絡を入れることが必要となります。
法律的に賠償責任が生じるのは、入社前2週間を切ってから断りの連絡をするような場合ですので、それまでであればリスクを回避することが可能です。
とはいえ、期限ぎりぎりになって辞退することは企業やエージェントの信用を害することにもなりかねないため、気持ちが固まったらすぐにでも連絡した方がよいでしょう。
入社当日の辞退は可能か
いくら損害賠償請求を受けるリスクがあると言っても、人間である以上、入社の当日になってやはり辞退したいという気持ちになることもあるでしょう。
一度入社してしまうと退職して再び転職活動を行うことはそれほど簡単ではありませんので、辞退の意思が強いのであればその気持ちは尊重すべきです。
そこで、そのような場合には、ただちに企業の採用担当者に直接連絡を入れて意思表明を行うことが重要です。
通常であればエージェントを介して連絡すべきところですが、緊急時にそのようなことをしていたのでは間に合わなくなる危険性がありますし、自らの誠意を示すためにも直接連絡する意義は大きいと言えます。
もちろん、企業から何らかの費用を請求されるリスクを伴うことにはなりますが、企業としても入社の意思がない人物を迎え入れることは、他の社員の士気を下げることにもなりかねないため、無理に引き留めようとはしないはずです。
なお、企業に連絡して事態を承認してもらったことで安心するのは禁物です。
忘れずにエージェントにも経緯を伝えて了解しておいてもらわなければ、今度はそちらから賠償を求められることになりかねないためです。
入社の辞退は、エージェントと企業の両者に了解されることではじめてリスクを回避することが可能になりますので、一方だけからオーケーをもらっただけですべての問題が解決されたと思い込まないようにしましょう。
特に昨今では、労働者不足が深刻化していますので、入社辞退は以前よりもトラブルに発展しやすくなっているという意識をもっておくことが重要です。